音楽というのはとても不思議だなと思う時がある。
長い時を経てもその楽曲を聴くことによって、まるでタイムスリップしたように当時の記憶や想いをリアルに蘇らせることが出来るからだ。 大江千里と言えばデビュー以来、良質のポップスを作り続けている、数少ないシンガーソングライターの一人だ。 そんな大江千里のベストアルバム「Sloppy Joe III」が4月19日にリリースされた。 そしてリスナーから寄せられたコメントに対して、一曲一曲に丁寧に返された大江千里自身のコメントもまた何とも心を打つ。 同日にはライブDVD「Senri Oe Xmas Concert 2005 PAGODAPIA〜A MAN AND HIS MUSIC〜」もリリースされ、こちらでアクティブな彼のライブシーンを堪能出来るようになっている。ファンにとっては何とも楽しみが目白押しだ。 そして今回のリリースに先駆けて3月24日にはピアノ・トリオでのライブアルバム「Live“ghost note”at Motion
Blue YOKOHAMA」もリリースされている。 大江千里はこれからもリスナーの心の片隅でずっと鳴り続ける楽曲を我々に聴かせてくれるだろう。そして彼がミュージシャンとしてキャリアを重ねることによって生み出される。今後の作品が楽しみでならない。
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◆大江千里 プロフィール◆
生年月日:1960年9月6日 星座:おとめ座 出身地:大阪 血液型:O型 趣味:建築物めぐり 好きな食べ物:辛いもの、パスタ ★全国ツアー情報 「SENRI OE Concert Tour 2006」
●前売料金:指定席 6,300円(税込・ドリンク代別)
★お問合せ先電話番号
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大江:きっかけは一つではないんですけどれも、今年はツアーも決まっててその時期に新作も出そうというふうに僕が言い出しっぺで言ってたんです。
でも今は自分の中で変化の時期が訪れていて、自分の中でいろいろなジャンルの壁がなくなってジャズの音源を作ったりと、音のキャッチボールみたいなことをやっているうちに、新しいポップスのアルバムを作るのにもう少し時間が要するなって思い始めたんですね。
だったらそういう変化の時期だからこそ、自分の足元というか原点っていうのを見つめ直してみるっていうはどうかな?ということで、新しいものを作りながら自分が作ってきたものをしっかり歌うツアーっていうのをやろうかって思ったんですよ。
それだったら「Sloppy Joe」はどうかなっていうところがきっかけなんです。
今までベスト盤っていうのはアーティスト主導で作ってたきらいがあったので、今回はファンの人の熱い気持ちで選曲をしてみるのはどうだろうということで、リクエストを募集するっていう企画が生まれたんです。
僕は頂いたリクエストを読んで、票数ではなくてその熱い想いに揺り動かされて選曲を行ったんですよ。
――普通だと例えばリクエストが多かった順とかですよね。
大江:そうなんですよね。やっぱり「十人十色」とか「REAL」とか出会いの曲で「GLORY DAYS」とかリクエストが多かったし、だけどそれらの曲は一枚目、二枚目の「Sloppy
Joe」に入ってるので、レーベルの方からは「GLORY DAYS」だけでも入れるのはどうかっていうようなのもあったんですけど「GLORY DAYS」はライブで歌って、そういう曲が入ってなくても納得出来るような選曲にしようっていうことで曲を選びました。
みんなが納得出来る選曲ってなかなか難しいんですけど、ただでもすごく個人的な想いに揺れ動かされて選曲がなされてるんで、そういった意味での強さっていうのは出せたかなっていうのはありますけどね。
――今回、聴かせて頂いて「おっ!これが来たかっ!」っていう曲が結構あったんですよね。
大江:えぇ、意外と入ってなかった曲とかもあるし。
――今回のアルバムで「サヴォタージュ」を改めて聴いてみて、この曲を最初に聴いた頃は東京には住んでいなかったんですけど、今、こうやって東京に住んでいて聴くと、当時とはまた違った気持ちで聴くことが出来たんですよ。
それって今回のきっかけがなければ、もしかしたら聴かないで過ごしてしまったかもしれないので、これは入れて頂いて良かったと思いましたね。
大江:それはまた何かコネクトしたような感じですね。
――えぇ、そう思います。例えば「ジェシオ'S BAR」とかも普通だとあまりベストには入らない感じだけど、みんなが好きっていうライブで盛り上がる曲ですよね。
リクエストで決め曲っていうのじゃないかもしれないけど、でも押さえてるところはしっかり押さえている感じがしましたね。
大江:季節もこういう季節なんでね、めくるめく若葉の頃に気持ちもワサワサって夏に向かって行く中で、ニューアルバムは出てないけど、ニューアルバムを聴いてるような感覚で聴ければ良いなって。
ただ自分が覚えてるのと、実際に聴き返してみて随分と時差がある曲もあって、選曲ってなかなか難しい作業だなと思いましたね。
――今回、例えば票数で選べばまだ楽だったかもしれないですけど、頂いたリクエストによってというところで迷うところはありますよね。
大江:うん、ありますね。後はやっぱり今おっしゃったように、コンサートとかで歌ってるから自分の中でシングルのつもりでいたら全然シングルで出てなくて(笑)、アルバムの中ですり抜けるように愛されてきてるっていう曲が、「あっ、そうか、今ここに入るべくして待ってたんだな」っていうような、「サヴォタージュ」なんかまさにそういうふうな感じだと思うんですけど、もし僕がこれを最終的に選んだことでそういう気持ちでハッとしてくれると良いなって思って選んだんですよね。
――えぇ、まさに(笑)。
大江:まさに、キャッチ!みたいな(笑)。
――それで家に帰って古いアルバムまで聴いてしまったりして(笑)、個人的には「渚のONE‐SIDE SUMMER」も入れてほしかったですね。
大江:それはね悩みましたね、そこら辺ね。
――入れてほしかったですねー。(笑)
大江:そうですねー(笑)、じゃあ、次に(笑)。
(一同笑)
――じゃあ、熱いリクエストを書かないとダメですね、揺り動かすような(笑)。
大江:うん、ほんとに一言でもそうなんですけど、今回頂いたリクエストを読んでてすごく熱くなりましたね。
僕の音楽と10代の時に出会って、どこか心の風景の中でその音楽が常に流れてて、月日っていうのは僕にも経ってるように、同じように経っているんですけど、でも変わってない部分っていうのを僕は頂いたメールを読んでて発見しましたね。
「サヴォタージュ」っていう曲を僕は選んだっていうのもそうだと思うんだけど、あの頃は「誰とでもいい 話がしたい」「あんな町は何処にでもある 妹の文字
コーヒー滲む」って、何か強がってる自分もいるんだけど、でも東京に出て来てこの街に埋もれたくないって、この街で俺は何者かになるんだっていうような、そういうエネルギーをどこにぶつけたら良いんだっていう、傷つけながらでも叫び続けてるような感じで。
でも今だにライブで歌うし、今もそういう気持ちはあるし、うん、そうだな、何も羊の仮面を被って大人になって行く必要はなくて、自分の中のそういう変わらない気持ちっていうのを、新しいアルバムでも「サヴォタージュ」の主人公の46歳を書けば良いんだなっていうようなことを思いながらメッセージを読んでましたね。
――別冊で入っている冊子の方で寄せられたリクエスト・メッセージに対して千里さんがコメントを返していますが、こちらのコメントにもかなり心が揺り動かれましたね。
今回このリクエストの曲の中で印象深いコメントというのはどんなのがありましたか?
大江:もういっぱいありましたね。例えば「十人十色」が結構な数が来てたんだけど、でも一つも似たような内容がなかったですね。だから出会いっていうのは、もうほんとにそれこそ「十人十色」で、人の数だけあるんだなぁってことも思ったし。
――例えばこんなふうにダイレクトな形で一挙にメッセージを受け止める機会ってあまりないと思うんですけど、受け止めることでまた千里さんの中でも変わった部分はありますか?
大江:そうですね、こういうことって普段はあまりないですからね。
コンサートでダイレクトに感じてることっていうのは、自分の細胞が感覚的なところで、あぁ、今来てるな、この気持ちを忘れないようにしようって、次の曲にそのエネルギーを導入したりするじゃないですか。
だけどやっぱりそれをまた後からもう一回、ロジカルにあれはこうだったんだって考えると、もうその時点で誤差が出来ちゃうんだけど、今回はとてもテンションの高い、深い告白というか想いというのかな、すごく濃密なものを頂いたっていう感覚があって、僕も直球で素直に返さざるを得ないなと思ったし、自分の立ち位置を見せられたという感じがありました。
ものすごく自己陶酔して言えば、こんな共有財産が僕にはあるんだなっていうことを思いましたね。
スタッフもblogで書いてくれたりとかして、「久しぶりに見るな、あー元気なんだ!」って、あぁ、こんなことを思ってくれてたんだっていうのも沢山あったし。
――メッセージを読んでいて思ったんですが、ファンの方が千里さんの歌と一緒に成長してるんですよね。今回のリリースはずっと聴いてきたファンに向けてというのももちろんあると思うんですけど、このベストアルバムと共に5月からコンサートツアーが予定されているんですよね。こちらはどのようなツアーになりそうなんですか?
大江:やっぱりそういう熱い想いがこもってるからこそ、いろんなところで響くアルバムになれば良いなっていうのを、僕の願いとして込めたつもりなので、そういうチャンスがあるところには出て行って伝えるっていうことをいっぱいやりたいですよね。
テレビでパッと3秒とか5秒とかで「仙台に大江千里がやって来る!」とかって流れた時に、ダンッ!とサビを歌ってる僕が流れるというか、あの曲のイントロがすぐにドアを開けたら会場から聴こえて来るっていう状況を作りたいなと。
実際に去年ジャズにトライして、アレンジとか音の方向とかっていうのが、自分の中でそっちに向かっているところがあって、ただ今回のコンサート、そしてそれにまつわるものっていうのはちょっと覗くとあぁー!って千ちゃんだっていうのがすぐわかる、そういう千里汁満載の・・・汁って(笑)。
――(笑)
大江:そういうものにしようって、僕もそれを心から楽しむイベントというか、そういうツアーにしたいと思ってますね。
いろんな所に行くんですけども、大きい会場だけじゃなくて、小さい所でもなるべくフルメンバーでとか、久しぶりに会う人達っていうのはたくさんいると思うんで、そういう状態で会いに行きます。
――楽しみですね。
大江:はい、すごく楽しみです。
――今回、3月にリリースされたライブアルバム「Live"ghost note"at Motion Blue YOKOHAMA 」のお話も聞かせて頂こうと思うんですけれど、まずアルバムを聴かせて頂いて、「ライブ見たかったな、失敗したぁ!」っていうのが感想だったんですけど(笑)。
大江:(笑)
――ライブアルバムが出てくれてほんと良かったなと思ってるんですが、まずジャジーな感じじゃないですか、千里さんはポップスのイメージが強かったので、今回、そっちの方向に行こうと思ったのはどうしてなのかなと。
大江:僕は実はこうあるべきだっていうポップス・シンガーソングライターの雛形が自分の頭の中であって、ピアノは弾かないでハンドマイクで歌に専念をする、作詞作曲を楽器でやってるにも関わらず、楽器はその道のプロの人にお願いして、一番良い状態にして自分は喉を開いて前で歌うっていうのが、デビューの時のスタンスだったんです。
これはおまけねっていうので弾き語りをするっていう、こういう形なんだみたいな。
詞と曲と声のトライアングル、詞で言い過ぎたことはメロディーでは言わない、簡素にして歌う時はシンプルに歌うとか、そういうイズムみたいなのが自分の中でいくつもあって(笑)、若い頃ってそういうのってあるじゃないですか。
でも30代位からいろんなミュージシャンと腹を割って話したりセッションする機会が増えて来て、いろんなジャンルの人に会って、僕もその都度練習していろんな曲にチャレンジしたりするようになって、音楽にはそんな壁ってないし、元々で言えば僕はピアノから始まってるわけだし、ピアノとの関係っていうのも、もっとやれるよなっていうか楽しくなるよなって思ったんですよ。
丁度、その頃ちょっと歌うことが苦しい時期があって、ピアノをもうちょっと頑張ってみよう、そしたら歌うことも逆にそれで楽しくなるかもしれないって。
過去に何度かそういうことがあったので、なんか歌うのに疲れたなってピアノを一生懸命やると、そこで喉が開いて楽しく声が乗って来る、そうするとまた指が動き出すっていう、そういうなにか二人三脚みたいなところがあったんですよね。
そうこうしてるうちに3年位前にピアノでクラシック的な曲を作曲したソロのアルバムを1枚出して、今回またトライをしようって思った時に、ピアノとベースとドラムのミニマムな三角形で、メゾピアノぐらいの小さいボリュームで大きな気持ちを伝えるものをちょっと作ってみようかなっていうのが始まりなんです。
それならスタイルはジャズが良いんじゃないかって、自分が一番好きなビル・エヴァンス・トリオを目標にして影を慕うように曲を作ってってところからだったんですけど、本当にトリオ自体が生まれて初めての経験で、ライブを始めた時っていうのはもう右も左もわからない状態で、やっと今回のライブアルバムを録音するMotion
Blueの辺りに何となくジャズのトリオってこういうものなんだっていうのが見えて来たっていう。
面白くなりかかって来た頃に千秋楽を迎えちゃったっていう感じで、これを聴くと僕はもうなんか無性に練習したくなるっていう(笑)、そういうアルバムでもありますね。
――こういうシリーズは今後も続けて頂けるんですか?
大江:そうですね。最初はこういうこともやっちゃうよ的な気持ちもどっかにあったと思うんだけど、今後もトリオっていうのがベースになるのかはわからないんですけど、これは細々でもいいからしっかり続けて、50の時にちょっと一つの形になって、60の時にまた一つくっきりと形にするっていう、そういうふうなものにしたいなって思いますね。
――実はたまたま前作の「12ヶ月」を聴かせて頂いていて、あれはどちらかと言うとクラシックに近くて、千里さんはこういうのも出すんだなーという感じで聴いていたんですけど、今回のライブアルバムを聴いて目からウロコがボロッと落ちたみたいな感じで、メチャメチャカッコイイなと思ったんですよ。歌を歌ってないんですけど、ピアノが歌ってるんですよね。
大江:おー、嬉しいですねー。
――全然、物足りないとか感じないし。
大江:ありがとうございます!
――改めて千里さんって、こんな綺麗なピアノの音を弾かれるんだなっていうのを実感させられました。
歌ってる千里さんもあって、これもずっと同立で行ってほしいなっていう。小さい所でやることが多いのかなとは思いますが、ずっと続けてほしいと思いますね。
大江:実は今回のライブでは1曲位ちょっと歌ったりとかしたんですけど、そうしたら声を出した時の会場のワッとなる感じっていうのは、あれっ!?ていうのもあって(笑)、だからピアノはピアノでもちろんやり続けることは勿論なんだけど、逆に歌を歌うことや自分で作ったものを自分が歌うことの楽しさとか、みんなとシェアする感覚っていうありがたい感じを思い知らされたツアーでもあったんでね。
――これがなかったらもしかしたらまた違ったかもしれないわけですよね、歌を歌うことに対して。
大江:そうですね。もっと違う選択肢もあったと思うんだけど、これをやり終えたことによって、ある種の自分の出来なさ加減っていうのも自分の中で見えた部分もあって。
もっとやりたい、もっとこうしたい、こっちに来たいっていうのが明確に見えて、じゃあ、そのためにはって言った時にシンガーソングライターとしてのアルバムの欲というか、自分が行くべきところっていうのをしっかり明確に模索し始めたっていうか、漠然とニューアルバムを今、作っちゃダメだなとか、そこからいろいろ自分の中で心の葛藤みたいなのが始まったんですよね。
だからこうやってジャズのアルバムが3月に出て、4月に「Sloppy Joe III」が出て、そのツアーをやって、そのツアー中に新曲が披露されたりするっていう企画もあったりと、しっかりとした形があって原点に戻るようで実は先に進むっていう時期なんでウカウカしてられないというか(笑)、単なる懐メロイベントで終わっちゃいけない数ヶ月だと思うんですよね。
これがあるからニューアルバムが出来たっていうのを新しい音源が届いた時に、そのコンサートに来た人がその空気感として、あぁーって思えるところまで行きたいなって今、思ってるんです。
3歩進んで2歩下がるみたいな毎日ですけど(笑)、作り続けてはいますね。
――そのお話を聞くとますますアルバムが楽しみになりますね。
大江:うん、良いの作りますからね。
――はい、期待しています。そして今回、ファンの方には本当にてんこ盛りなんですけど、アルバムと一緒にライブのDVDも出るんですよね。こちらはどんなふうなDVDになっているんでしょうか。
大江:PAGODAPIAっていう元々はシェイクスピアの劇場だったグローブ座で、僕はクリスマスコンサートで「PAGODA TREE」っていうロングラン公演をやってて、これは千里のクリスマスツリー、槐の木っていう意味なんだけど、それをシェイクスピアに引っ掛けてPAGODAPIAっていうアミューズメントパークのように劇場を仕立てて、ちょっと芝居がかった演出で1部2部構成にしたりとか、コンセプチュアルにクリスマスなんだけどなぜかお化けのクリスマスをやってみたりとか、アジアン・クリスマスをやったりとかしてたんですよ。
久しぶりにこの劇場でクリスマスがやれるということで、大江千里ショー的な「A MAN AND HIS MUSIC」っていうタイトルで組み立てた内容のコンサートの千秋楽の、その日のドキュメンタリーというか、全てが入っているDVDですね。
――千里さんはクリスマスにコンサートをされることが多いんですよね、こちらもクリスマスの曲がたくさん入ってますね。
大江:冬の曲が入ってますね、メドレーが入ってたり。
――これは見に行った方はもちろんとして、見に行っていない方にも是非見て頂きたいですね。
大江:異常なハイテンションなんですけど(笑)。
――そうなんですか?(笑)
大江:元気のある時に見て下さい(笑)。
――(笑)、これを見て今年のクリスマスに備えるって感じですね(笑)。
大江:そうですね(笑)。
――では少し音楽以外のお話を聞かせて頂こうと思いますが、大江さんにとって宝物を一つ教えて頂けますか?
大江:旅をした時に絵葉書でも良いんですけど、自分が心を揺り動かされるような物、例えば石鹸や石ころでも良いんだけど、そういう物を持ち帰って身近な引き出しの中とかに入れてるんですね、旅コーナーみたいな。
煮詰まった時に引き出しを開けて手に取ってみたりとかすると、そういう物が意外に自分を温めてくれるんですよ。
何かそういう物が最近、大事に思えますね。
以前にイタリアに行った時に郊外の方まで行って、その時に電車路線図っていうのを買ったんですけど、丸付けまくってて、ここからここまで何十分かかって、乗り換えて何とかでとかって細かく書いてあって、もうボロボロになってて(笑)。
それをセロテープを貼って取って置いてるんですけど、久しぶりに開けると、旅のその時の湿気とか匂いまでに甦って来るような感じで、なかなかやっぱりそういうことって人生に何度もないんでね。
これからどこかに行く時も1個で良いと思うんだけど、そういう旅のかけらみたいなやつを取っておこうと思ってるんです。
最近、故郷に帰って親父に会いに大阪に帰ったりする時も、大阪だけじゃなくって二人で奈良に泊まりに行ったりとかして、お寺を一緒に見に行って、お互いに写真を撮って、その時の写真を旅の感想と一緒に取っておいたりとか、そういうことをやるようになりましたね。
「サヴォタージュ」の主人公っていうのは今そういうことやっているんでしょうね。
――それは歌にしてほしいですね。
大江:何か結構良いですよね。
――基本的に物とかを取って置かれるタイプの方なんですか?
大江:そうですね。やっぱり物が覚えてるっていう記憶があるんですね。
箸カバーの紙のやつあるじゃないですか、あぁいうやつとか意外に取って置いてたりとか紙ナプキンに何か書いてるやつとか取って置いたりとか。
――なるほど。
大江:シンガーソングライター界のやくみつるって、言われちゃったりして(笑)。
――いつかHPでちょっと公開とかしてほしいですね。
大江:そうですね。
――それでは自分以外の作品で1枚お薦めのアルバムを紹介して頂けますか?
大江:難しいですね。ポール・アンカの「ロック・スウィングス」っていうアルバムがあって、スパンダー・バレエの「TRUE」とか、ヴァン・ヘイレンの「Jump」とかをジャズにして歌ってるアルバムなんですけど、でもスタンダードなんですよ。
ビリー・アイドルとかをスウィングして歌ってるんですよね。
だからまさに我々の世代がこれから円熟しつつもヤングな気持ちを無くさすにロック・スウィングし続けるっていう、そういう指標の一つとして僕は聴いてるんですよ、カッコイイじいちゃんだなって思いながら。
――カッコイイですね。
大江:これは是非聴いてほしいですね。
――今後はどんな音楽を作って行きたいと思いますか?
大江:やっぱりポップスが大好きで一貫して心を揺り動かされる。ジャズ大好きなんだけど、でもジャズの中にもすごくポップスがあって、そういうものが僕は好きなんだけど、でもそれをジャズとして様になるようにするには結構ドップリ染まらないとそれは出来ないと思うんですよ。
ジャンルを超えたポップス感みたいなポップイズムっていうのかな、ポップスってこうだよねみたいな。
偶然、街を歩いてて何か流れて来ました、一行が耳から離れません。
レコード屋さんに行ったんだけど、誰が歌ってる曲なのかわからない、でもやっと何の曲かわかったんですよ、それは私の運命を変える曲になりましたって。
でもその曲は全然悲しいことを歌ってないんです、楽しいのに涙が出るんですっていう、何か笑いながらも切なくなるっていう、そういうのが僕のポップス感で、そういうことをこれからも引き出しを増やしながらより深くよりストレートにやろうって思ってるんですよね。
そのためにはいろんなジャンルのミュージシャンといろんなキャッチボールをしながら、自分自身もいろんなことを出来るスタンスに立ってて、そして50の時、60の時っていうのはこういうアルバムがダッと出るような腕力、足腰の力っていうのを持って、常にフットワークの軽さを保っておきたいなって思いますね。
――それでは最後にみなさんに向けてメッセージをお願いします。
大江:いろんなところで曲を聴く機会がきっとあると思うんですけど、それは一回一回が、一期一会だなって、今ほんとに思うんですね。
だからその一期一会のチャンスに沁みて行けるような音楽をやり続けるので、時々気にしてコンサートのドアをノックしてほしいなって思いますね。
――ありがとうございました。
(Text By Takahashi)